カビが生えていたのでゴミ箱に捨てた。

その直後私は猛烈なめまいと動悸がしてその場に倒れこんだ。
ドンッと重い音が部屋に響いた。

いったいどれくらいの時間がたったのだろう、部屋の中はテレビの砂嵐の音だけが鳴り響き、電気は消え、静まりかえっていた。息子達はもう眠ってしまったのだろうか、テレビをつけたのはいったい誰だ、そんなことを考えながらフラフラする頭で電気のスイッチを押した。

が、つかない。

もう一度、だがやはり…

部屋には不気味にテレビの光だけが見渡していた。私は状況が理解できていなかったが頭がフラフラするせいでただスイッチを切り替え続ける事しかできてはいなかった。
しばらくして私は家にある電気すべてにスイッチを入れた。だがその意味はなかった、この家は依然として真っ暗のままであった。いや1つだけ明かりを灯したものがあった。ガスコンロである。
わたしはこの異常な状況から抜け出すためにまず懐中電灯を探し出し、息子たちの様子を見て回ることにした。しかし私の目に映ったのは無人の子供部屋。これもいない。なんと私はこの奇妙な空間にたった1人でいるというのだ。なんとも薄気味悪い話である。
私はふと時計をみた、デジタル表示が消えている。秒針も短針もない。

これで私は完全に事態を把握した。この空間はおかしい。そう重い急いで玄関に向かった、だが案の定扉はピクリともしない。そこで私はそばにあった学生時代によく愛用した金属バットで扉のガラス部分を思いきりたたいた。


‘‘ゴン!!!’’


扉は鈍い音を立てただけであり、ヒビ1つなかった。私はその刹那驚愕と恐怖をのいり混じったなんともいえぬ嫌な感情を抱いた。その瞬間、



ガチャン!!!


裏口のほうでガラスが粉々に砕け散ったであろう音をはっきりと聞いた。思わず心臓が破裂しそうになるほど驚きながら素早く振り返った。私はしばしその場に立ちつくし裏口でなにが起こったのか把握しようと聞き耳を立てていた。正直言うと足がすくんで動けなかったのである。

おそらく床には大量の破片がちらばっているだろう、私は薄暗い玄関から同じく薄暗い廊下をぼんやりと眺めながら声を潜めていた。
そのときは私は気づいた。廊下には私が以前買ってきた靴や服などの雑貨が整然と置かれている、はずで、あった…。
いや、置かれていなければならない。ここが私の家ならば。だが…明らかに配置がおかしい、それに品物もめちゃくちゃだ、私はごくりと生唾を飲み込み先ほどの破砕音で激しく波打っていた心臓がようやく平静を取り戻したところで再び鼓動が激しくなっていくのを私は感じれずにはいられなかった。もう全身冷や汗だらだらである。

「ここは私の家ではない…」

こんな当たり前かつ単調な答え以外今の私にはわからなかった。もう緊張で胸が。

なんとか落ち着こうとしたその瞬間、ピシッっという誰かがガラスを踏むであろう音が聞こえてきた。そいつはゆっくりと、そして確実に私のところに向かっているように思えた。おもわず硬直した。だが私はこの奇妙な空間に迷い込んでから初めて人に会えるかもしてないという甘い期待もした、そうあの音を聞くまでは。

あの音には聞き覚えがある、よくテレビで聞くあの音だ。鎧、甲冑の音だ。あの金属音だ。私はその瞬間、そいつがただの人間である可能性はないと直感した。
やがてそいつは最後の曲がり角に差し掛かるであろう、そうすれば私はそいつと対面することになる、それにこんな遠くの廊下までガラスを踏みつける音がし続けるなんてやはりおかしい…。
私は緊張で卒倒しそうだった。そしていよいよ…


?音が止んだ、今までの足音と金属音が消え去った。

私は安堵の気持ちを抱いたその時、顔の目の前にぬれた、冷たく、薄緑がかった長い手が現れこう言いながら私をとらえ闇に引きずり込んでいった。私はずっと音に気をとられ扉を背にしていたので気づかなかったのだが、いつのまにか扉は消え、深い漆黒の闇が存在していたのである。

その闇から伸びる手はこう言った…。







「気づかなかったらよかったのに…」
WAO

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